※この記事は、連載『リック・ルービンの言葉に耳を澄ませる』の第2話です。
「作品は語らないようでいて、すべてを語っている。」
— リック・ルービン
水面下にあるもの
作品というのは、表現された人の“こころ”を映す鏡のようなもの。
どれだけ高度な技術やテクニックを凝らしても、作り手の内なる声はどこかににじみ出てくる。
リック・ルービンは、それを感じ取る。
彼は、技術的な完成度よりも、その音がどんな内面の状態から生まれたのか、という点に注目する。
たとえば、ノイズが混ざった録音でも、それが本当にアーティストの核から出ていると感じれば、迷わず「これがいい」と言う。
魂から出てきた曲たち
あとから知って驚いたのだが、自分がかつて繰り返し聴いていた2曲——
Slipknotの『Duality』とAudioslaveの『Be Yourself』が収録されているアルバムは、
リック・ルービンがプロデューサーとして関わっていたと知って、正直かなり驚いた。
Slipknotの『Duality』、Audioslaveの『Be Yourself』は当時、聴いていた音楽のなかでは別格に感じていたからだ。
『Duality』は、他の曲よりもメロディアスで、個人的には“泣きの曲”にカテゴライズしている。
歌詞よりもメロディーが先に耳に飛び込んでくる自分にとっては、
心の奥から絞り出されるような歌声とともに、強く訴えかけてくるような波動を感じた。
それに、ファンの自宅で撮影されたという、何かにとりつかれたような、狂気じみたPVを観てしまうと、鳥肌が立つ。
一方、『Be Yourself』は前者とは違い、大人の雰囲気が漂っていた。
クリス・コーネルのしっとりとしたマイクの持ち方と、
“To be yourself is all that you can do”(自分らしくあることが、あなたにできるすべて)という言葉を、心が締めつけられるようなメロディーにのせられて歌われると、思わず身体が震える。
聴いただけで、彼の抱えていたと言われる問題、心の葛藤から出てきた、100パーセント内なる声であると想像するのは難しくない。
今思えば、これらの楽曲が心に深く届いたのは、彼らの魂から生まれてきた作品だったからだろう。
表現は技術より「響き」
うまく書こう、うまく伝えようと思うほど、また、評価や結果を気にしすぎると、表現はどこか濁っていく。
逆に、ただ自分の内なる声が表現できたとき、伝えようとせずとも伝わる何かが生まれる。
それが“作品が語っている”ということなのだろう。
しかし、そう表現することはもちろん簡単なことではないのだが、それを引き出すことに長けているリック・ルービンは、本当にすごい才能を持ち合わせていると、あらためて感じる。
ひとつの結び
作品は、作者の状態を映す静かな湖面のようなもの。
表面的な技術ではなく、「どこから」「どんな心の状態で」生まれたのか。
それが、作品の純度を決める。
リック・ルービンが耳を澄ませているのは、音の奥にある魂だ。
だからこそ、彼の携わった作品には、誰かの真実を感じる、心震える瞬間が宿っているのかもしれない。
あのとき耳を奪われたのは、音ではなく、誰かの“生きている声”だったのかもしれない。
🔗 次回(第3話)も、静かに制作中です。公開をお楽しみに。
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画像提供:George K (Unsplash)
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