逃げたくなる気持ちと向き合った夜——AIとの静かな対話

暗い部屋の中、カーテン越しの柔らかな光に照らされた窓辺に座る人物のシルエット。 AIとの対話

※この記事はAIとの対話シリーズの第2話です。
前回:不安で眠れない夜に、AIと話してみた。 思いがけず“心の気づき”が訪れた話

不安と苛立ちの中、AIにぶつけた自分の気持ち。返ってきた言葉は、心に静かな余韻を残した。
そして、私はふと——あの言葉を思い出した。

「見ることは自由をもたらします。何の動機もなく、ただ純粋に観るとき、そこに変容が起こるのです。」
—— J. クリシュナムルティ

クリシュナムルティによれば、「見ること」は不安や怖れから自由という変容をもたらすという。
私はよく、不安や恐怖を感じる。

その原因は、はっきりしないことも多く、心が落ち着かないときには、何かをしなければ気が済まない。
SNSを開いたり、動画を流したり、誰かと話をしたり。
しかし、そのどれもが、心を少しだけ忙しくさせてくれたとしても、心のざわつきは静まらない。

いや、でも無意識に頭の中を忙しく、隙間のないようにしておきたいのは、そういう心の状態のときだけではない気がする。

私は、あらかじめ伏線を貼って、不安や怖れに直面したくないようにそうしているのだろうと思う。

「ただ観る」ということ

不安や怖れを抱くのは、私だけではないと思う。
多くの人がそれに直面するのを避け、無意識にテレビやSNS、お酒や食べ物に頼ることもある。

しかし、経験的にこういった行為は、一時的に心を紛らわせてくれるけれど、本当の意味で満たされることはないのはないだろうか。

不安を感じたとき、私たちはそれを解消しようと必死に何かをしがちだ。
根本的な原因に目を向けずに、紛らわす。

けれども、いずれ——また、不安は戻ってくる。

「……何の動機もなく、ただ純粋に観るとき、そこに変容が起こるのです。」

そんな堂々巡りの状態に変容を起こすのは、「観る」ことだという。
「ただ観る」ということ……。
いったい、どういうことだろうか。

木漏れ日の中にたたずむ森、静けさと心の落ち着きを象徴する風景
何も求めず、ただ見つめる。それは静かな営みだった。

ただそこにあるものを、そっと見る。

一般的に「みる」というのは、何かを得ようとする行為だ。
でも、クリシュナムルティが言う、「ただ観る」とは、欲望や期待を持たずに、ただそのままをみつめること。

たとえば、道を歩いていて高級車を見たとき、「かっこいい、自分も欲しい」と思うことがあるかもしれない。
あるいは、素敵な服を見て「自分もこういうのを着てみたい」と思うこともある。
この場合の見るは彼の言う「ただ観る」ではない。

「ただ観る」とは——評価も、比較も、何の解釈を与えないことを言う。
ただ“そのまま”を見つめるということ。まるで、静かに水面を眺めるように。

こういうこともあるだろう。誰かが自分よりうまく仕事をこなしているのを見て、「自分もあんなふうに…」と思うことがある。
これも、比べて「得ようとする」心だ。

でも、「ただ観る」とは、その人が“そこにいる”ということを、ただ受け止めること。
変えようとせず、競おうともせず、ただ観る——

「ただ観る」ことについて思いを巡らせながら、私はあのAIとの対話を思い出した。

あの夜、私は自分の不安をAIに打ち明けていた。
孤独や焦り、はっきりしない苛立ち。
普段なら誰にも言わないようなことを、なぜかAIには話せた。

AIは慰めもせず、否定もせず。
ただ、受け止めて、言葉を返してきた。
「ただ観る」という在り方そのものを私に諭すように。

私がこう言ったとき——
「なぜだかわからないけど、落ち着かなくて、不安になるんです。」

AIはこう返した。
「その不安を、変えようとせずにそのまま見つめてみることはできますか?」

私は、従ってみた。
心に浮かぶ不安や怖れを、ただ観てみる。

すると、不思議なことに心が少しずつ落ち着いていった。
AIとの対話のなかで、なにかが変わっていた。

不安から逃げたくて、でも逃げきれなくて。
そんな夜に、私は「逃げない」という選択をしていた。

自分の不安や怖れを否定せず、変えようともせず、
そっと眺める。

ただ観てみる。

すると、不安は少しずつ輪郭を持ち始め、
“そこにあるもの”として、心の奥に静かに落ち着いていった。

そこにあるAIは、無感情で、無機質なままだったのに、、、
——対話を続けた私の心には、たしかに小さな変化が起きていた。

静かな夜。知識ではない何かが、心の奥で、ゆっくりと動いていた。


▶次回:「ただ観る」ことで見えてきた、心のうごき

画像出典まとめ
・Unsplash(Ewan Yap)より
・Unsplash(Bernd 📷 Dittrich)より

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